◆とにかく第1話で主人公を辛辣に陥れようと決めていた
──今日は最新刊となる「終のすみか」についてお伺いしたいのですが、もうひとつは村生さんご自身のこと、
非常に長く堅実な支持を得てきた村生ミオという作家が何を考えていらっしゃるのかも、明らかにできればと。
ははは。あんまりね、考えてない。
──(笑)。
いつも時間に追われてるんで、たいして深いことは考えてないと思う。まあ具体的に質問されれば答えられるかもしれません。
とにかく日々執筆に追われて夢中で走ってる感じなんで。
──100万部ヒットとなった「SとM」の次回作、「終のすみか」ですが、前作から一転してシリアスな内容が続いていますね。
前は割と、笑いをエッセンスとして入れてたんですよ。でも今回は排除して、シリアスだけで読ませようっていう感じではありますね。
それは編集長の意見だったんですよ。やっぱり変えたいっていうのもあるんでしょう。テイストを。
──では今後も、「SとM」に代表されるようなギャグ的展開は登場しない?
しません。でも油断するとギャグのクセが顔を出しちゃうんですけどね。
1巻にもちょっとだけ、そのテイストを感じる箇所はあると思います。
──第1話では主人公がいきなり奥さんと子供に絶縁を宣言される、いたたまれないスタートでした。
とにかく第1話で主人公を辛辣に陥れようとは決めていたんです。
それが読者にどういう感情を抱かせるのか若干心配ではあったのですが、反応は上々だったようで。
もしかしたら「俺はここまで酷くはないよな」って安心感を抱いてもらえたのかもしれません。
──確かにあそこまでどん底の淵に叩き落とされる人はなかなかいないとは思いますが、
一方でシンパシーを感じさせる部分もたくさんあります。息子が母親の財布からお金を抜いているのを見ちゃうんだけど、
主人公はそれを叱れず、自分のお金で補填して揉み消すエピソードとか。
事を荒立てたくないっていう気持ちは、誰しもありますからね。大ごとにしたくない、知らないふりをしたほうが楽っていうのは、
中年男性にはよくある感情です。
(つづく)
コミックナタリー 2013年3月15日 22:00
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のつづき
◆僕が描くセックスの技法なんて、完全にファンタジーです
──こういう身につまされるような描写の数々は、村生さんの実体験が反映されていたりするんでしょうか。
というのもですね、大変不躾なことを言うようで恐縮ですけれど、
村生さんのお顔が、ご自身の描く主人公にとても似てらっしゃると思いまして……。
えっ、そう?
──マンガには必ずどこかに作者自身が投影されている部分があるっていう話を聞いたことがあるんですが。
あぁ……確かにね、描いてる以上は多少は、どうしても出るでしょうね。でも「終のすみか」は実体験ではないですよ(笑)。
──愛する妻や家族に裏切られて酷い思いをしたとか。
そういうのはまだ、してないですね。
──まだ(笑)。
これからは知らないけど(笑)。
──それこそ色恋とセックスの描写が豊かですから、作者ご本人はさぞ百戦錬磨の方なのではないかと。
そういう勘違いはよくされるんです。でも僕は未熟ですよ。得てして、女性のことがわからないからこそ描けるのかもしれません。
僕が描くセックスの技法なんてファンタジーです。作っちゃってます完全に。
──そういうものなんですか。たとえばAVを観たりして着想を得るとかも。
ないですねー。大抵は担当編集から聞くことが多いですね。エロ情報とか。最近AVでどんなジャンルがあるんですか、とかね、
雑談の中から教えてもらう。だから担当編集は非常に重要ですよ。担当といつも打ち合わせしてるわけで、
私生活だって立ち入って聞くわけじゃないですか。そうすると人となりもわかってくるし、女性の編集者もいますからね、キャラの勉強にもなりますよね。
◆気づくといつも、ヒロインの胸やお尻がボンって出てしまっている
──キャラクターのモデルになったりもするんですか。
直接じゃないけど、素材にはなりますよね。まあ映画やドラマ、小説なんかからヒントを得たりもしてますけど、
担当がいちばん話す人だからね。それって結構マンガに反映されますよ。
「終のすみか」に登場する由佳なんてまさにそうで、担当のエピソードがもとになっています。
──主人公の言いなりになってみせる、ワケありのマドンナ社員ですね。
担当に「どんな女の子と付き合ったことがある?」って話をしてたら、何も要求をしてこない、
ただただ言いなりになる女の子がいたっていうんですよ。で、突っ込んで聞いてみれば、
言いなりになるにはなるだけの理由があった。それがすごく面白くて、そこから膨らませていきました。
──女性キャラのルックスには、誰かモデルがいたりするんですか。村生さんの作品にはグラマーな美女が多く登場しますが。
あれはね、不思議なことに、描いてるとどうしてもそうなっちゃうんですよね。僕自身はグラマーな人もスレンダーな人も、
それぞれ魅力的だと感じているんですけど、絵で描くとどうしても肉感的になってしまう。
これは技術的な問題なんですが、オードリー・ヘップバーンやイザベル・アジャーニを魅力的に描くのはすごく難しい。
痩身の人の魅力って描きづらいもんなんですよ。でもモニカ・ベルッチの魅力なら描ける。
で、気づくといつも、僕のヒロインは胸やお尻がボンって出てしまっている(笑)。
(つづく)
のつづき
──先生の好みが投影されているというわけじゃないんですね。
まあ、それもあるかもしれない(笑)。最近で言うと壇蜜さんとか佐々木心音さんみたいな、
ああいうボディラインが好きなんですよ。グラビアは参考になりますね。
◆22ページの中で内角内角で攻めて、外角で仕留めるっていう
──グラマー美女ともうひとつ、村生マンガの名物ともいえるのが「見開き使い」だと思うのですが。
ネットでは「見開き芸」なんて呼ばれたりもしています。
ははは。ちょっと前だけど「サークルゲーム」という作品があって、あれを毎回見開きを必ず使うって縛りでやったんです。
それも担当が言い出したんだけど、ルールにしちゃったもんだからそればっかり考えてて(笑)。
結局そのときは過剰な演出にしかならなかったけど、「SとM」ではもうちょっとアプローチの方法が増やせて、
笑いにも使えるようになった。
──そういうステップがあったんですね。
見開きは物語のテンポに緩急を付ける仕掛けなんですよね。意外性をもたらして、
話がダラダラ流れてしまわないように一度止めるというか。週刊で言うと22ページの中で2カ所は変化がほしくて、
そのひとつに見開きを使ったりします。クリント・イーストウッドの映画がそういう手を使ってるような気がするんだけど。
観てるこっちが「あれ?」って思うようなシーンが入ってくるんです。「なんでこいつ唐突に怒り出したんだろう」みたいな違和感とか。
──敢えて流れを止めて、注意を惹くようなやり方を。
あれ、わざとやってると思うんだよなー。僕はネームの前にジョナサンでプロットというか、シナリオを起こすんですけど、
──ジョナサン(笑)。
ここ数年はもっぱらジョナサン(笑)。そのシナリオを読んでいると、何か物足りないというか
「この辺で何かが必要だな」っていうのが見えてくるんです。それはストーリーとは関係ないんだけど、
スピード感とか動きという面で。そこに差し込む仕掛けのひとつとして、見開きがある。
──テンポが良いだけじゃダメで、どこかで壊す必要があるということですね。
うん、メリハリですよね。僕はいつもキャッチャーのつもりで描いてるから。
サインを出して、まず内角攻めて、仕留めるのは外角っていう。そういう考えはやっぱりありますね。
──前と違う球を投げて意表を突いたりとか。
だから、22ページの中で、煽り方ですよね。最後に向けての煽り方というか。内角内角で煽って、実は外角でしたっていう。
◆マンガの感性というのは、つまるところ省略の仕方にある
──伺っていて、「見開きを必ず使う」とか「ギャグ封印」とか、作品ごとにルールを設定されているのが興味深いと思ったのですが。
マンガって、ルールというか法律みたいなものがその作品らしさを作っていくと思うんです。
そういう法律の中で面白く描くみたいなことを考えるのが面白いんで。ルールがないと同じになっちゃうし。
法律が変われば別の作品になる。
──その辺りに何か長いキャリアをサバイブしてこられた秘訣があるようにも聞こえます。
ほかにマンガの描き方として、意識されていることはありますか?
省略の仕方を変えることでしょうか。僕はマンガの感性というのは、つまるところ省略だと思ってるんです。
(つづく)
のつづき
──もう少し詳しく教えて下さい。
あるシーンが1から10まであったとき……、例えば寝坊したOLが慌てて家を出ていくシーンを描くとして、
1コマ目で目覚まし時計を見せて、2コマ目に慌てて着替えてるカットがきて、3コマ目で家を飛び出す、とするのか、
どこを描くかは無数のチョイスがありますよね。パンをくわえて上着を着ながら走る1コマのみで表現してもいい。
──どこを切り取りどこを捨てるかというのが個性を作るのだと。
ええ。慣れっこになると、手癖になっちゃうんで敢えて変えるというか。それは同じようなシーンを描くとわかるんですよね。
「またこれやっちゃったな」「またこのコマの次にこのコマ描いちゃったな」って。だからそれを敢えて外すというか。
そうすると受けるイメージが違いますよね。どこを省略するかはその都度、作品ごとに変えて工夫していくんです。
──そこは研究というか、別の省略を開発していこうと。
それをやらないと、持たない気がしますね。もちろんそれを無意識でやれる人と意識的にちゃんとやる人と、
いろいろいるとは思うんですけど。僕はちゃんと意識してやらないと、できないと思うんで。
◆どっちを選んでも地獄、という展開がいちばん好き
──省略の仕方を変える一方で、村生さんの中には変化しないものもあると思うのですが、それはなんでしょう。
やっぱりいちばん心がけてるのは緊張感なんですよ。見開きも新しい手法もそのためのものなんで。
常に張りつめてる感じっていうのは意識してやってます。それは(ページを)めくる力を強くするというか。
めくりたいと思わせるにはサスペンスです。サスペンスを作りたい。サスペンスものって話じゃないですよ。
──コメディものでも、何かしらの緊張感が。
ええ。もっと理想を言うと、奇数ページにサスペンスがあって、偶数ページに答えがあるといい(笑)。
そしてサスペンスをもたらすのは選択なんですよね。
──選択を迫られて、決断するという流れにサスペンスがある。
それも、天国と地獄と選ぶっていうんじゃ面白くないんですよ。誰だって天国を選ぶから。
どっちを選んでも辛いっていうのがいちばん面白い。どっちを選んでも地獄、という展開がいちばん好きです。
もちろん最終的には救われるところまで、持っていきたいんだけど。
──では「終のすみか」の主人公も、いまは地獄のような日々ですけど(笑)。
そうですね、傷を抱えた主人公ですが、同じように傷を抱えた女性と巡り会って互いに救われていくうち、
自分にとっての幸せと言える何かに辿り着くお話を描くつもりです。
──そうすると、マドンナは変わっていくわけですね。
ええ、そのつもりです。ひとつ種明かしをすると、いつか登場する「すみか」という女性を、
彼にとってのゴールにしようと思っています。
──なるほど、まさに文字通り「終のすみか」になるんですね。同じ男としては、主人公がいつの日か
女性を信用できるようになったらいいなと思っています。
たぶん、それが彼の幸せ探しの旅のゴールになるんでしょうね。
まあでも、自分より不幸な男がいて安心できるなー、くらいでいいので(笑)、楽しんで読んでいただければと。
(おしまい)
実体験なんて無いほうが良いのかもしれない
この人の漫画 日本中のコンビニで買えちゃうだろ
タイトルに反して、前半くらいでヒロインがバージンではなくなった記憶がある
みんな豪邸建てた億万長者
4人いるんだが
漫画界での立ち位置や作品の変遷が柳沢きみおとそっくりだ。
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