私たちの間に置かれた950ポンド(約431キロ)のカジキは、陸に揚げられてから5時間経っていて、石のよう に冷たかった。ブロック氏は私に、指をカジキの大きな眼の奥へ入れてみるよう促した。この若い女性が誰なの か全く知らなかったが、彼女の勧めに従ってみることにした。
眼球が傾き、指は眼窩の奥へと進んでいく。さらに深くまで差し込んでいくと、驚いた。温かい。冷たい塊の はずのカジキが、眼の奥はほとんど熱いと言ってよいほどの温かさなのだ。
「発熱器官です」とブロック氏は説明を始めた。
カジキ類では、眼球運動に関わる筋肉の一部が進化の過程で改良され、筋肉中のミトコンドリアが熱を生み出 すことができるのだと、彼女は続けた。これは「非ふるえ熱産生(NST)」と呼ばれる現象で、カジキはこの発 熱器官のおかげで、日の当たる海面から冷たい海の底まで自由に移動し、眼や脳を温かく保ち、効率よく働かせ ることができるのだ。
マグロではさらに優れた対向流熱交換システムで、体全体を温めることができるデザインになっているのだ と、ブロック氏は語った。
マグロはある種の内温動物のようなもので、アオザメやネズミザメと同じく温血性だ。これらの生物は「驚異 的な網」を意味する奇網(rete mirabile)という構造を持っている。動脈と静脈が互いに近接して絡み合い、 動脈の熱が静脈に伝えられ、再循環するのだ。カジキの場合は部分的で、尾側は外温性だが、前方の眼と脳は内温性になっている。
◆キャナリー・ロウ(缶詰通り)でのマグロ研究
最近になって再会するまでに、ブロック氏はマッカーサー財団の「天才賞」を受賞し、スタンフォード大学の 教授職を得、クロマグロの生態に関してはトップレベルの研究者として有名になっていた。ブロック氏の研究室 は、カリフォルニア州モントレーのキャナリー・ロウ沿い、ホプキンス海洋研究所にある。私はそこへ立ち寄 り、最大のマグロであるクロマグロについて彼女に話を聞いた。
「鳥や哺乳類が体温を維持しているのには、どんな良いことがあると思いますか? それは、体温を保つこと で、いつでも好きなときに動けることです。私たち人間と同じで、周りの温度に制限されないのです。また体内 を温めることで、代謝機能も向上します。温度が高ければ、筋肉の働きも効率が良くなります。それは鳥であっ ても哺乳類であっても、そしてマグロであっても同じことです。とはいえ、全てのマグロがクロマグロほど温かいわけではありません。クロマグロはマグロ科魚類の中で最も体温が高いのです」。
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ソース:ナショナルジオグラフィック
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140306001
画像:貪欲な捕食者クロマグロは、小魚、甲殻類、イカを主な餌とする。
Photograph by Brian Skerry, National Geographic
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◆温かい脳、冷たい心臓
この30年の間に、ブロック氏のチームは技術者たちとともに何度も試行錯誤を繰り返した結果、「アーカイバ ル・タグ(archival tag:記録保存標識)」という、外科的に魚の体内に埋め込むタグの開発に成功していた。 内側の末端では、腹腔内の温度と魚が泳いでいる水深が計測される。タグの柄は体外に突き出していて、周囲の 水温と照度を測るセンサーが付いている。
タグに搭載された小型コンピューターは数年間にわたり、2分ごとに測定値情報を取り込み続ける。調査対象 の魚を捕獲してタグを研究室へ送った漁師には、1000ドル(約10万円)の報奨金が与えられる。研究室へ戻った タグからは溢れるほどのデータが得られ、それぞれの魚についての一日の動き、季節的な移動が、水平方向、垂 直方向の両面で明らかになり、同時に捕食の習性や生理学的な情報が得られる。
最初の訪問から数カ月後、私はモントレーの研究室を再び訪れた。その時ブロック氏はタイセイヨウクロマグ ロの潜水の様子を描写した一連のグラフを見せながらこう語った。「このグラフから、マグロが海面近くでリラ ックスしているのが読み取れます。この辺りはとても暖かい水域です。マグロはメキシコ湾流まで休みに行って いるのです」。
「そして今度はメイン湾へやって来ます。ここで読み取れるのは、マグロが何度も何度も、上昇と下降を繰り返 していることです。ちょっとおかしいなとは思っていたのですが、共著者の一人が講義でこう言ったんで す。“なぜマグロが、まるで息をするために上がってくる哺乳類のように振る舞うんだろう”と。それでグラフ を見なおして、ああ、これは本当に異様なことだと思いました」。
タグの情報は、クロマグロが水深250メートルまで潜り、氷のように冷たいその場所で約20分間滞在した後、 上がってきて次の潜水までしばらく海面近くで過ごすということを示していた。
「極低温の水中では、マグロは徐脈を引き起こし、心拍が遅くなるのではないかと考えています。上がってきて 心臓を温めなおさなければならないのです。哺乳類の心臓は常に温かく保たれていますが、マグロはそれと全く 同じなわけではありません。マグロの心臓はエラの近くにあるため、冷えてしまうのです。研究室で分かったの は、クロマグロの心臓には、低温下で機能する並外れた能力があるということです」。
ブロック氏は、心収縮が細胞内の筋小胞体に蓄えられたカルシウムイオンに依存していることを説明してくれ た。ブロック氏と共同研究者らが試験したマグロの中で、どの試験温度においてもクロマグロはカルシウムの取 り込み速度がマグロ科最大で、ビンナガの2倍、キハダやメバチの3倍もの効率を誇るのだという。
対向流熱交換システムは、類まれなクロマグロの活動性と耐久性を説明する鍵ではあるが、その大部分はそれ とは逆の能力に依っているということが明らかになった。低温でもよく機能する冷たい心臓だ。この心臓のおか げで、西大西洋のクロマグロはたった2週間で、摂氏30度のメキシコ湾の産卵場所から摂氏10度のカナダの餌場 まで旅することができる。そしてまた、暖かい海面から冷たい海の底まで難なく通うことができるのだ。
◆賞賛もつかの間
2012年、ブロック氏はタグプロジェクトの応用技術でロレックス賞を受賞した。受賞者には、10万スイスフラ ン(約1150万円)の賞金とロレックスの時計が賞品として授与される。時計が届いたとき、私もブロック教授の 研究室に居合わせた。ブロック氏が時計を見せた2人のスタッフから拍手を受け、そのロレックスの賞品に喜び の表情を見せたのは、私が数えたところほんの16秒。すぐ仕事に戻り、電話でマグロのタグの発送に関わる物流 管理の調整に取り組んでいた。時計は忘れ去られ、ただ彼女の腕にぴったりと収まっていた。私が帰るまでにブロック氏が時計を再び見ることはなかった。
(引用終わり)
水深250mに滞在してるのはエビ摂るためなんかね?
いかにもナショジオな文章だ
通は赤身、これだね
誰も食わなかったトロは修学旅行生とかのお上りさんにあげてた
クロマグロも人間と同じように,ミトコンドリアがある事で動いてなくても熱産生可能である。
クロマグロは動脈の熱を静脈に伝えやすい構造をとってるので体温を維持しやすく,その心臓は冷たい海の中でも割とよく動くから長距離も行ける。
ただし,エラが心臓の近くにあるため外の影響を受けやすく水深250メートルにずっといられるほどではなく20分間隔で日の当たる海面近くまで出てくる必要あり。
マグロ博士発見
びっくりだ
ブラックバスの胃も真冬なのにスゲー暖かい
完全養殖のマグロが食卓を席巻するようになってから
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